それは「やさしい日本語」です
「やさしい日本語」の具体的な記述用法を、弘前大学社会言語学研究室の佐藤和之氏の 『〈増補版〉 「やさしい日本語」作成のためのガイドライン』2013年を例に示す。
今、期待を集めている「機械翻訳」においても、いったん分かりやすい日本語に直してから外国語に訳した方が意味の通る訳文になります。「やさしい日本語」は、そのような効果も期待されます。
やさしい日本語の「やさしい」には、易しいと優しい(相手に配慮した)の二つの言葉がかけあわされています。「易しい」だけであれば、"easy Japanese" と訳せばよいのですが、「優しい」の意味が落ちてしまいます。両方の意味を伝えたければ、"easy and caring Japanese"とか "easy and compassionate Japanese"などとなり、長くて使いにくくなります。"easy" は、厳しくないとかだらしないなど、ネガティブな意味で使われる場合があるのも気になります。また、外国人が学ぶ初歩の日本語を指して、"easy Japanese"と呼ぶ場合もあり、混乱を招きそうです。
出入国在留管理庁と文化庁が今年8月に策定した「在留支援のためのやさしい日本語ガイドライン」では、やさしい日本語を作るときに、まず日本語母語話者にとってわかりやすい文章に書き変えることが示されています。諸外国において取り組まれている"plain language"が移民を含めた一般の市民を対象としていることと共通する考え方と言えそうです。
前回のコラムで、「多文化共生」の英訳について書きました。今回、英訳の難しいもう一つの用語を取り上げたいと思います。それは「やさしい日本語」です。
私は、今のところ、国際的に一般的な"plain" を用いた "plain Japanese" が望ましいのではないかと考えます。ただし、諸外国で用いられている "plain language"は、主に書き言葉を指しており、日本では話し言葉におけるやさしい日本語の活用も広がっているので、その点は注意が必要です。
一方、日本では、"easy Japanese" が広がりつつあるように思われます。その一因は、やさしい日本語の研究者が用いてきた影響なのかもしれません。あるいは、マスコミの影響が大きいでしょうか。NHKは、外国人や小中学生にわかりやすい日本語でニュースを伝えるために、2012年からNews Web Easyというサイトを運営しています。