「やさしい日本語」は在留外国人にとって「やさしい」のか?
前述の図表2のガイドラインのうち、書き言葉に主な焦点をあてた①には、やさしい日本語を作るための3つのステップが載っている(図表4a)。そのステップ1は「日本人にわかりやすい文章」を作ることである。具体的には「情報を整理する」「文をわかりやすくする」「外来語に気を付ける」などのポイントがある。
外国人とコミュニケーションをとる際には、「やさしい日本語」を活用することも有効といえます。
2005年10月に、弘前市で有効性の検証実験を行いました。参加した外国人は中国、韓国、マレーシア、タイ、ベトナム、フランス、ドイツ、ルー マニアなど、17ヵ国からの留学生(88名)です。留学生をAとBの2つのグループに分けました。Aグループには「普通 の日本語」(NJ)で、Bグループには「やさしい日本語」(EJ)で同じ内容の災害情報を示し、2つのグループで、どのくらい理解に差が出るかを検証しました。「普通の日本語」(NJ)グループには「頭部を保護してく ださい」という指示を、また、「やさしい日本語」(EJ)グループには、「帽子をかぶってください」という指示を与えました。その指示に従えたかどうかの成功率は、2つのグルー プで次のような大きな差がでました。「やさしい日本語」(EJ) 95.2% 成功 「普通の日本語」(NJ) 10.9% 成功。
あなたなら「三保の松原」を外国人にどうわかりやすく説明しますか?まずは動画を観て「やさしい日本語」のイメージをつかみましょう。
『緊急地震速報・津波警報の多言語辞書』は、情報配信事業者に対して公表し、外国人旅行者や定住外国人に提供することを目的として作られた。英語、中国語(繁体字・簡体字)、韓国語、スペイン語、ポルトガル語で翻訳されているが、それ以外の言語を母語に持つ外国人には「やさしい日本語」で知らせるようになっている。「翻訳にあたっては、日本語の表現を単に直訳するのではなく、外国人が誤解なく、分かりやすい表現となるよう配慮しています」と「はじめに」に書かれているが、いくつかの問題点を感じるので、具体的に見ていこう。なお、気象庁や消防庁や観光庁では、対応翻訳言語を11言語に増やし、2020年には、観光庁は訪日外国人に対して国内における緊急地震速報、津波警報、気象特別警報、避難勧告等をプッシュ型で通知できる災害時情報提供アプリ「Safety tips」を監修している。英語、中国語(簡体字・繁体字)、韓国語、日本語、スペイン語、ポルトガル語、ベトナム語、タイ語、インドネシア語、タガログ語、ネパール語、クメール語、ビルマ語、モンゴル語の14か国語に対応している。
「やさしい日本語」普及の目的は、外国人の情報入手やコミュニケーションを円滑にすることにある。そのことは、外国人だけでなく、共に暮らす日本人のためにもなる。たとえば、情報の行き違いやコミュニケーションのすれ違いによる生活上・仕事上のトラブルを避けることができる。また、地域や職場などでより活躍してもらえるようになる。さらには、互いに異なる文化を知り、交流を楽しむこともできる。つまり、マイナス面を減らす効果に加え、プラス面を増やす効果も期待できる。
となっているが、原文の日本語文では、「火を消そうとして危険な状況になるのだったら、火を消そうとするな」という意味だが、「やさしい日本語」では「地震がおさまってから火を消してください」という意味になる。おそらく、「地震の最中に火を消すのは危険」→「火を消すのだったら地震がおさまってから」→「地震がおさまってから火を消してください」という思考経路だと思うが意味が違い、日本語話者なら「なぜ、地震がおさまったら火を消さなければならないのだろう」と思うだろう。英語版では “Do not worry about turning off the gas in the kitchen.” となっていて、原文に忠実である。今日の震災予防のテレビ番組によると、ガス器具は震度5以上の揺れで自動的にガスが止る設定になっているそうである。
今朝、7時21分ごろ、東北地方で強い地震がありました。気象庁は、今後もしばらく余震が続くうえ、やや規模の大きな余震が起きるおそれもあるとして、地震の揺れで壁に亀裂が入ったりしている建物には近づかないようにするなど、余震に対して十分注意してほしいと呼びかけています。――――――――――――――――――――――――――――――――-今日朝7時21分東北地方で大きい地震がありました。余震後で来る地震に注意してください。地震でこわれた建物に注意してください。この後も注意してください。どちらの文章がわかりやすいと思いましたか?上の文章は、詳しく書いてあって、たくさんのことがわかります。下の文章は、詳しくはありませんが、読んですぐに内容がわかります。下の文章の方が、わかるまでの時間が短く、どんな人にも(小学生でも、大人でも)わかりやすかったのではないでしょうか。なぜなら、下の文章は、一つ一つの文章が短くてすっきりしていて、難しいことばを使っていないからです。下のような文章でつかわれていることばを、やさしい日本語といいます。やさしい日本語は、多くの人に、すばやく情報を伝えたいときに、とても有効な言葉です。
日本人県民の「やさしい日本語」についての調査では、やさしい日本語を知っていますかという質問に対して、「知らない」が最も多く、全体の45%です。
「外国人にもわかりやすい文章」を読んだ普通の日本人だったら、書類を出すと新生児の「在留カード」がすぐもらえると想像するし、「役所でもらった書類」とは一体何かと思うだろう、おそらく、元の文章を読むと「出生届」や「住民票」であろう。「申請」という用語が難しいと考えて省略したのであろうが、意味が通じないと思う。同庁から出された出入国在留管理庁・文化庁別冊『やさしい日本語書き換え例』2020年8月には、「申請」は説明されていない。「出生届」は、「赤あかちゃんが生うまれたときにまちの役所やくしょに出だす紙かみ」とあるが、「住民票」は説明されていない。後の回で述べる「もらいます」・「行きます」という指示や命令や依頼のマス形の問題と関連して、外国人には難しい表現であろう。
外国人(注2)に情報をすばやく正確に伝えるためには、それぞれの母語に翻訳・通訳することが望ましい。だが、現実にはそれが難しいこともある。そこで、日本語をある程度知っている外国人に情報を伝える方法のひとつとして、「やさしい日本語」への注目が集まるようになった。やさしい日本語とは、「難しい言葉を言い換えるなど、相手に配慮したわかりやすい日本語」などと定義されている(注3)。
に書き換えているが、減速が停車になって意味が違い、高速道路で停車すると大変なことになる。英語訳では、“Do not slow down suddenly.” で正しい英語である。「減速」は『広辞苑』では「速力を落とすこと」、『明鏡国語辞典』では「速度が落ちること。また、速度を落とすこと」となっている。「速度」にしても「速力」にしても「やさしい日本語」に書換えが困難で、「スピード」を残すと「外来語の使用はひかえる」という原則に違反するので、このように情報を省略して書き換えたのであろう。また、「落とす」が多義語化していて、『明鏡国語辞典』によると、「①上から下へ物の重みで物を移動させる。落下させる。②くっついているもの(特に、不要物)を取り除く。③身につけていた物をなくす。④身にそなわったものをなくす。⑤光・視線などのものの上に注ぐ。⑥含まれているべきものをもらす。⑦将棋で対戦するとき、強い方が駒を減らす。⑧試験などで、不合格にする。⑨大切な試合を取り逃す。⑩ひそかに逃す。⑪腰や肩などの位置を普通の高さより低くする。⑫物事の程度を劣った(また、低い)状態にする。⑬悪く言う。⑭よくない状態に立ち至らせる。⑮問い詰めて白状させる。⑯おちぶれて、前よりも好ましくない状態や環境などに身を置く。⑰その人の所有に帰するようにする。⑱物事の決まりをつける。⑲コンピューターで、データをある媒体から他の媒体へ移す。⑳城などを攻め取る。㉑柔道などで、気を失わせる。㉒落語で、落ちをつけて話しをしめくくる。㉓電源を切る。㉔口説いて承諾させる。」とあり、この場合の「落とす」は⑫の「物事の程度を劣った(また、低い)状態にする。」に当たるのだろう。例文で「ガスの火を落とす。」が引かれている。いずれにしても、「落とす」は書き換えが困難と思って省略したものであろう。
「やさしい日本語」は在留外国人にとって「やさしい」のか?
のように示されている。「頭部を保護してください」と「やさしい日本語」の「帽子をかぶってください」を外国人に伝えたときを比較すると、「やさしい日本語」の方が成功率が格段に上がる。具体化しているからだろうが、日本人に「帽子をかぶってください」を言うと、「ヘルメットはだめなのか」、「机の下に頭を隠すのはだめなのか」というような質問が来るだろう。外国人も同じことを感じないだろうか。
本ガイドラインは、出入国在留管理庁と文化庁が、共生社会実現に向けたやさしい日本語の活用を促進するため、学識有識者、地方自治体、外国人を支援する団体の関係者等からなる「在留支援のためのやさしい日本語ガイドラインに関する有識者会議」を開催し作成しました。