なので 「正しい日本語」は本当は存在しないはずなのだ
■正しい言葉遣いのポイントを例文を交えた解説と豊富な演習・トレーニングを通じて理解促進を図ります。■『日本語演習帖』(サブテキスト)の演習を通じて、正しい日本語の使い方をより確実なものにすることができます。
日本語ブームと言われた時期がある。大野晋『日本語練習帳』(1999年、岩波書店)、齋藤孝『声に出して読みたい日本語』(2001年、草思社)などがベストセラーになり、漢字検定の受験がブームになった時期である。(主催者のサイトによれば、2000年度に約158万人だった志願者が、わずか2年間で約204万人に増え、その後、2008年度の289万人まで増え続けていた。)このブームは規範的な日本語(いわゆる「正しい日本語」)や古典的教養の強調といった考え方を広めた。これらは例えば藤原正彦『国家の品格』(2005年、新潮社)、坂東真理子『女性の品格』(2007年、PHP研究所)などがベストセラーになったことにもつながっているように思われる。また、教育実践の面では暗誦や朗読を学校教育に広めることにもつながった。ブーム自体が続いているかどうかは定かではないが、基本的にこれらの考え方や実践がいまでもある程度広がっているとは言えるだろう。
実は私自身も上述の日本語ブームに対して、気持ち悪さを感じている一人である。「日本語教育を仕事にしています」というと、しばしば日本語を愛し、素朴に日本語や日本文化の素晴らしさを広める愛国者のように思われたりするのであるが、実は、私に限らず、多くの日本語教師はそのような言われ方にある種の落ち着かない気分を感じている。しかし、ただ、気持ち悪がっているだけではいけないと思うので、これから数回にわたって、その理由について説明し、日本語の規範(「正しい日本語」)に対する考え方や「日本語の美しさ」をめぐる言説の問題点を解き明かしてみたいと思う。
国語講師。三重県出身。公立高校から、塾や予備校を利用せずに東京大学文科Ⅲ類に現役合格。教養学部超域文化科学科を首席で卒業後、学習塾や私立高校などで講師の経験を積み、現在は大学受験塾の教壇に立つ。また、カルチャースクールや公民館で古典入門、文章の書き方講座などを担当し、6歳から90歳まで幅広い世代から支持される。たとえ話や笑いを交えた、わかりやすく納得できる教え方が好評で、栄光ゼミナールの授業コンテストで全国優勝した経験を持つ。『源氏物語』『百人一首』をはじめ、古典・近代文学・歌舞伎などの教養に裏打ちされた日本語の見識を活かして、社会人女性向けの敬語講座、書籍の執筆にも取り組む。NHKEテレ「Rの法則」に敬語講師として出演するなど、テレビや雑誌でも幅広く活躍中。著書(監修を含む)に『美しい女性をつくる 言葉のお作法』『大人の語彙力が使える順できちんと身につく本』(かんき出版)や、『正しい日本語の使い方』(枻出版社)『品よく美しく伝わる「大和言葉」たしなみ帖』(永岡書店)『語彙力強化ドリル300』(宝島社)など多数。
二重敬語にも、もやもやする人多数。「“〇〇さまがお見えになられました”は、“お見えになりました”が正しい」など、ていねいさを追求するあまり過剰な表現になってしまう例が挙げられていました。ほかにも、「おっしゃられる」「拝見させていただく」「伺わせていただく」「役職+様」などもあります。「おっしゃられる」は「おっしゃる」、「拝見させていただく」は「拝見する」、「伺わせていただく」は「お伺いします」が正しい日本語となります。なかには、「お承りいたしました」「お召し上がりになられますか?」と三重敬語になっているパターンも!「お承りいたしました」は「承りました」、「お召し上がりになられますか?」は「召し上がりますか?」と修正できます。敬語は難しいと思われがちですが、ていねいさはありつつもへりくだりすぎない、シンプルな敬語を心がけましょう。
そもそも言語は流動的なものであって多数派が「正しい」とされるものだから、それは「正しさ」ではなく「認識の一致」なだけだと思う。なので、「正しい日本語」は本当は存在しないはずなのだ。しかし、「間違った日本語」はあると思う。
正しい日本語は、一般に年代を問わず使われている言葉ですから、長年使われてきた表現とも言えます。長年使われてきたのには理由があります。その一つが日本語のもつ「美しさ」という点です。